人件費が払えるかどうかは、何で判断すべきか
人件費が払えるかどうかは、売上ではなく粗利で判断します。売上がいくら大きくても、そこから材料費や外注費を引いた粗利が小さければ、払える給与の上限は低いからです。粗利とは、売上から売上原価を引いた、会社が自力で稼いだ付加価値のことです。
この判断に使うのが労働分配率です。労働分配率とは、粗利のうち何割を人件費(給与・賞与・社会保険料など)に回しているかを示す割合のことです。たとえば粗利が2億円で人件費が1億円なら、労働分配率は50%になります。
人件費の上昇を「売上が増えれば吸収できる」と考える社長は多いですが、粗利率が変わらないまま売上だけ追うと、人も増えて人件費も増え、結局分配率は下がりません。見るべきは売上の大きさではなく、粗利に対する人件費の比率です。
労働分配率は、どのくらいが目安か
労働分配率の目安は業種によって大きく違うため、一律の正解はありません。人が中心の労働集約型の業種では60%を超えることもあり、設備や仕入れが中心の業種では40%を下回ることもあります。ですから他社の平均値より、自社の過去の推移と比べることが大切です。
たとえば粗利2億円で人件費1億円、労働分配率50%の会社を考えます。ここで粗利が変わらないまま人件費を1.1億円に増やすと、分配率は55%に上がります。残る粗利は9000万円から変わらず、そこから家賃や販管費を払うと、営業利益(本業で稼いだ利益)が圧迫されていくのが数字で見えます。
逆に、昇給しても利益を守りたいなら、分配率を一定に保てる粗利の増加が必要です。人件費を10%増やすなら、粗利も同じ割合で増やす。この「分配率を軸に考える」発想が、人件費上昇時代の判断を楽にします。
人を増やす前に、何を確認すべきか
人を増やす前に確認すべきは、今いる人の一人当たり粗利です。一人当たり粗利とは、粗利を従業員数で割った、一人がどれだけ付加価値を生んでいるかを示す数字のことです。これが昇給の原資を決めます。
たとえば粗利2億円を20人で稼いでいれば、一人当たり粗利は1000万円です。もし人手が足りないからと5人増やして25人にしても、粗利が2億円のままなら一人当たりは800万円に下がります。頭数を増やしただけでは、一人が払える給与の上限はむしろ下がるのです。
人手不足のときほど、採用の前に「今の人が生む粗利を上げられないか」を考える価値があります。付加価値の低い仕事を減らす、値上げで単価を上げる、外注を見直す。これらは人を増やさずに一人当たり粗利を上げる打ち手です。
なぜ「忙しいのに儲からない」が起きるのか
忙しいのに儲からない原因の多くは、売上は増えても一人当たり粗利が増えていないことにあります。仕事量が増えると人を足し、人件費は確実に増えるのに、単価や粗利率が据え置きのままだと、働くほど分配率が上がって利益が薄くなります。
たとえば残業や増員で何とか受注をさばいている状態は、売上は伸びて見えても、増えた粗利以上に人件費が増えていることがあります。このとき必要なのは、もっと頑張ることではなく、受ける仕事の中身を選び直すことです。
粗利率の低い仕事を減らし、粗利率の高い仕事に人を振り向ける。同じ人数でも、仕事の組み合わせを変えるだけで一人当たり粗利は変わります。忙しさではなく、粗利で仕事を選ぶ基準を持つことが出発点です。
明日から社長は何をすればよいか
まずは直近の決算から、労働分配率と一人当たり粗利の2つを計算してみてください。人件費(役員報酬・社会保険料まで含む)を粗利で割れば分配率、粗利を従業員数で割れば一人当たり粗利です。この2つを過去3年分並べるだけで、人件費と利益の関係が見えてきます。
次に、分配率が上がり続けているなら、その原因が「昇給」なのか「人を増やしたのに粗利が増えていない」のかを切り分けます。前者なら許容範囲かもしれませんが、後者なら仕事の中身を見直す段階に来ています。
自社の数字をどう読むか、どの仕事が一人当たり粗利を下げているかは、身内の目だと判断が甘くなりがちです。客観的に見たいときは、第三者に分解してもらうのも一つの選択肢です。まずは2つの数字を出すことから始めてみてください。
※本コラムは、代表・大越の経験と考えにもとづく意見です。数値は説明のための計算例です。