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COLUMN ── 人と組織と利益

人件費率の適正はどのくらいか ── 人手不足でも利益を出す組織の数字の見方

公開 2026-11-04 | 執筆 大越 隆行
この記事の要点
  1. 人件費の適正は売上ではなく粗利から見る(労働分配率)
  2. 一人当たり粗利が昇給の原資を決める
  3. 人を増やす前に、既存の人の生産性を数字で確認する

人件費が払えるかどうかは、何で判断すべきか

人件費が払えるかどうかは、売上ではなく粗利で判断します。売上がいくら大きくても、そこから材料費や外注費を引いた粗利が小さければ、払える給与の上限は低いからです。粗利とは、売上から売上原価を引いた、会社が自力で稼いだ付加価値のことです。

この判断に使うのが労働分配率です。労働分配率とは、粗利のうち何割を人件費(給与・賞与・社会保険料など)に回しているかを示す割合のことです。たとえば粗利が2億円で人件費が1億円なら、労働分配率は50%になります。

人件費の上昇を「売上が増えれば吸収できる」と考える社長は多いですが、粗利率が変わらないまま売上だけ追うと、人も増えて人件費も増え、結局分配率は下がりません。見るべきは売上の大きさではなく、粗利に対する人件費の比率です。

労働分配率は、どのくらいが目安か

労働分配率の目安は業種によって大きく違うため、一律の正解はありません。人が中心の労働集約型の業種では60%を超えることもあり、設備や仕入れが中心の業種では40%を下回ることもあります。ですから他社の平均値より、自社の過去の推移と比べることが大切です。

たとえば粗利2億円で人件費1億円、労働分配率50%の会社を考えます。ここで粗利が変わらないまま人件費を1.1億円に増やすと、分配率は55%に上がります。残る粗利は9000万円から変わらず、そこから家賃や販管費を払うと、営業利益(本業で稼いだ利益)が圧迫されていくのが数字で見えます。

逆に、昇給しても利益を守りたいなら、分配率を一定に保てる粗利の増加が必要です。人件費を10%増やすなら、粗利も同じ割合で増やす。この「分配率を軸に考える」発想が、人件費上昇時代の判断を楽にします。

人を増やす前に、何を確認すべきか

人を増やす前に確認すべきは、今いる人の一人当たり粗利です。一人当たり粗利とは、粗利を従業員数で割った、一人がどれだけ付加価値を生んでいるかを示す数字のことです。これが昇給の原資を決めます。

たとえば粗利2億円を20人で稼いでいれば、一人当たり粗利は1000万円です。もし人手が足りないからと5人増やして25人にしても、粗利が2億円のままなら一人当たりは800万円に下がります。頭数を増やしただけでは、一人が払える給与の上限はむしろ下がるのです。

人手不足のときほど、採用の前に「今の人が生む粗利を上げられないか」を考える価値があります。付加価値の低い仕事を減らす、値上げで単価を上げる、外注を見直す。これらは人を増やさずに一人当たり粗利を上げる打ち手です。

なぜ「忙しいのに儲からない」が起きるのか

忙しいのに儲からない原因の多くは、売上は増えても一人当たり粗利が増えていないことにあります。仕事量が増えると人を足し、人件費は確実に増えるのに、単価や粗利率が据え置きのままだと、働くほど分配率が上がって利益が薄くなります。

たとえば残業や増員で何とか受注をさばいている状態は、売上は伸びて見えても、増えた粗利以上に人件費が増えていることがあります。このとき必要なのは、もっと頑張ることではなく、受ける仕事の中身を選び直すことです。

粗利率の低い仕事を減らし、粗利率の高い仕事に人を振り向ける。同じ人数でも、仕事の組み合わせを変えるだけで一人当たり粗利は変わります。忙しさではなく、粗利で仕事を選ぶ基準を持つことが出発点です。

明日から社長は何をすればよいか

まずは直近の決算から、労働分配率と一人当たり粗利の2つを計算してみてください。人件費(役員報酬・社会保険料まで含む)を粗利で割れば分配率、粗利を従業員数で割れば一人当たり粗利です。この2つを過去3年分並べるだけで、人件費と利益の関係が見えてきます。

次に、分配率が上がり続けているなら、その原因が「昇給」なのか「人を増やしたのに粗利が増えていない」のかを切り分けます。前者なら許容範囲かもしれませんが、後者なら仕事の中身を見直す段階に来ています。

自社の数字をどう読むか、どの仕事が一人当たり粗利を下げているかは、身内の目だと判断が甘くなりがちです。客観的に見たいときは、第三者に分解してもらうのも一つの選択肢です。まずは2つの数字を出すことから始めてみてください。

※本コラムは、代表・大越の経験と考えにもとづく意見です。数値は説明のための計算例です。

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よくある質問

労働分配率は何%が適正ですか

一律の正解はなく、業種によって40%台から60%超まで幅があります。他社平均より、自社の過去の推移と比べて上がり続けていないかを見るのが実務的です。

人手不足なら採用を増やすしかないのでは

採用の前に、今いる人の一人当たり粗利を確認することをおすすめします。頭数を増やしても粗利が増えなければ一人当たりは下がり、払える給与の上限も下がるためです。

昇給の原資はどう考えればよいですか

昇給の原資は粗利の増加分から考えます。人件費を増やすなら同じ割合で粗利を増やせば労働分配率を保てるため、まず粗利をいくら増やせるかを先に試算すると判断しやすくなります。

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執筆:大越 隆行(T&Fアセットマネジメント株式会社 代表取締役兼CEO)Amazonで世界基準のオペレーションに携わった後、プライム上場企業の構造改革推進室で値上げ交渉・事業再生・撤退・M&Aを実行。粗利ドックの診断・伴走・再建はすべて本人が現場に入ります。プロフィール