黒字なのにお金がないのはなぜか
結論から言えば、利益は「儲けの計算結果」であり、現金の残高とは別物だからです。決算書の利益が黒字でも、手元の預金が増えていないことは珍しくありません。私はこの違和感こそ、資金繰りを見直す出発点だと考えています。
利益とは、売上から費用を差し引いた会計上の数字のことです。ところが売上が立った時点ではまだ現金が入っていなかったり、逆に現金が出ていく支払いが費用として計上されていなかったりします。このズレが「黒字なのにお金がない」という状態を生みます。
たとえば年商8億円の会社が営業利益3,000万円を計上しても、そのお金が全額そのまま預金に残るわけではありません。利益と現金は、別々に追いかける必要があるのです。
利益とキャッシュはどこでズレるのか
結論は、在庫・売掛金・借入返済の3か所で利益と現金が大きくズレます。この3つを押さえれば、お金が消える経路のほとんどが見えてきます。
在庫は、仕入れた時点で現金が出ていくのに、売れるまで費用になりません。つまり在庫が増えるほど、利益には影響しないまま現金だけが減っていきます。売掛金とは、商品を売ったのに代金がまだ入金されていない状態のことで、これも売上と利益は立つのに現金はまだ手元にない状態です。
借入の元本返済も要注意です。元本の返済は費用ではないため利益を減らしませんが、現金は確実に出ていきます。利益が出ているのにお金が減る会社は、たいていこの3つのどこかに原因があります。
- 在庫:仕入で現金は出るが、売れるまで費用にならない
- 売掛金:売上と利益は立つが、入金はまだ先
- 借入の元本返済:費用ではないが現金は出ていく
ズレはどのくらいの金額になるのか
結論として、運転資金という形で数字にすると、ズレの大きさが具体的に見えてきます。運転資金とは、売掛金と在庫の合計から買掛金(未払いの仕入代金)を引いた、事業を回すために寝ているお金のことです。
たとえば売掛金が8,000万円、在庫が5,000万円、買掛金が4,000万円の会社なら、運転資金は8,000万円+5,000万円−4,000万円=9,000万円です。この9,000万円は、利益とは別に事業に縛られて動かせない現金です。売上が伸びて売掛金や在庫が増えれば、この金額はさらに膨らみます。
ここに年間の借入返済が1,500万円あれば、利益3,000万円のうち半分は返済で消えます。残り1,500万円から、運転資金の増加分を差し引いた金額が、実際に手元に残る現金の目安になります。売上を追って規模を拡大するほど運転資金が膨らみ、黒字でも資金繰りが苦しくなるのはこのためです。
資金繰りを楽にするにはどこを見るか
結論は、利益を増やすことと同時に、在庫・売掛・支払条件の3点を回すスピードを上げることです。利益率の改善だけでなく、現金が戻ってくる速さが資金繰りを左右します。
在庫は、売れ筋と死に筋を分けて、滞留している在庫を減らすだけで現金が戻ってきます。売掛金は、回収サイトを1か月から2週間に縮めるだけで、手元の現金は大きく変わります。逆に支払いは、仕入先と交渉して無理のない範囲で後ろ倒しにできれば、資金の余裕が生まれます。
もちろん粗利率(売上に対する粗利の割合)を高めることも重要です。粗利の厚い商売ほど、同じ売上でも手元に残る現金が増えるからです。値上げや原価の見直しで粗利を確保しつつ、現金の回転を速める。この両輪で考えるのが、私の基本的な方針です。
明日から社長は何をすればよいか
まずやるべきは、直近3か月の「利益」と「預金残高の増減」を並べて書き出すことです。利益が出ているのに預金が増えていなければ、その差額がどこに消えたかを在庫・売掛・返済の3つに当てはめて確認します。
次に、売掛金の回収サイトと在庫の金額を書き出し、1年前と比べてどれだけ増えたかを見ます。売上が伸びているのに現金が苦しいなら、運転資金の増加が原因である可能性が高い。ここが数字で見えるだけで、打ち手の優先順位がはっきりします。
とはいえ、自社の数字を自分で分解するのは案外難しいものです。利益と現金のどこがズレているのか見当がつかないときは、第三者に決算書とお金の流れを分解してもらうのも一つの手だと思います。まずは利益と預金の増減を並べる。ここから始めてみてください。
※本コラムは、代表・大越の経験と考えにもとづく意見です。数値は説明のための計算例です。