銀行は決算書のどこを見ているのか
銀行がまず見るのは、売上の大きさではなく「利益が安定して出ているか」です。具体的には、営業利益、自己資本比率、そして返済原資になるキャッシュの流れを順に確認していきます。社長が「今期は売上が伸びた」と胸を張っても、利益が薄ければ評価は上がりにくい、というのが私の実感です。
銀行は決算書をもとに企業を点数化し、融資の可否や金利を決めています。これを一般に「格付け」や「債務者区分」と呼びます。格付けとは、銀行が取引先の返済能力をランク付けした内部評価のことです。この評価が一段変わるだけで、借りられる額や金利の条件が目に見えて変わります。
だからこそ、決算書は「税金を計算するための書類」ではなく「自社の信用力を伝える書類」だと考えたほうがいい。売上の数字を並べる前に、利益率がどう見えるかを意識することが出発点です。
なぜ売上が大きくても評価されないのか
売上が大きくても、粗利率が低ければ銀行の評価は上がりにくいからです。粗利とは、売上から仕入れや原価を引いた、その商売が生み出した利益のことです。この粗利が薄いと、どれだけ売っても手元に残るお金が少なく、返済原資が細く見えてしまいます。
たとえば年商10億円で粗利率15%の会社と、年商6億円で粗利率30%の会社を比べてみます。前者の粗利は1億5千万円、後者は1億8千万円です。売上は前者のほうが4億円大きいのに、商売が稼いだ利益は後者のほうが多い。銀行はこの「稼ぐ力」を見ているので、規模だけでは評価されないのです。
売上を追って薄利の仕事を増やすと、決算書の見栄えは良くても中身は痩せていきます。社長が規模を誇りたい気持ちはよく分かりますが、与信の観点では逆効果になりかねない、というのが私の考えです。
黒字なのに融資が渋くなるのはなぜか
黒字でも、その黒字が本業で稼いだものでなければ、銀行は割り引いて見るからです。たとえば保有資産の売却益や、一時的な補助金で黒字にした場合、来期も続く利益とは評価されません。銀行が重視するのは、営業利益、つまり本業の活動だけで稼いだ利益です。
営業利益とは、売上から原価と販管費(人件費や家賃などの経費)を引いた、本業の儲けを示す数字です。ここが赤字で、特別利益を足してようやく最終黒字になっている決算は、銀行から見ると「本業は苦しい」と映ります。最終利益の数字だけ整えても、中身は見抜かれると考えたほうがいい。
年商8億円、粗利率20%で粗利が1億6千万円の会社が、販管費1億7千万円で営業赤字だったとします。資産売却で最終黒字にしても、本業は1千万円の赤字です。この構造を放置したまま融資を申し込んでも、良い条件は引き出しにくいでしょう。
決算前に社長が整えておくべき数字
決算を迎える前の数か月で、見える数字と中身の両方を整えておくことが大切です。決算が確定してからでは打つ手が限られるので、着地が見えてくる時期に手を打つ必要があります。私は、粗利率・営業利益・自己資本の3点を特に意識することをおすすめしています。
まず粗利率を部門や商品ごとに分けて、足を引っ張っている薄利の取引を把握します。次に販管費の中に、利益を生まない固定費が膨らんでいないかを確認します。そのうえで、不採算な取引を見直したり値上げを検討したりすることで、営業利益の底上げを狙います。
- 粗利率を部門・商品別に分けて薄利の取引を洗い出す
- 営業利益がプラスで着地する見込みかを早めに確認する
- 自己資本を厚くするため、過度な節税で利益を消しすぎない
- 一時的な利益に頼らず本業の数字で黒字を作れているか見る
自己資本と利益の関係をどう見るか
自己資本が厚い会社ほど、銀行は返済の余裕があると評価します。自己資本とは、返済義務のない自社のお金、つまり資本金と過去に積み上げた利益の合計のことです。毎期の利益を内部に残していくほど、この自己資本は積み上がっていきます。
ここで注意したいのが、過度な節税です。税金を減らそうとして利益を消しすぎると、手元に残る自己資本も痩せていきます。たとえば税引前利益を1千万円削れば、確かに税金は減りますが、積み上がるはずだった利益の多くも失われます。節税と信用力は、ときに逆方向に働くのです。
私は、利益をきちんと出して税金を払い、自己資本を厚くするほうが、長い目で見た資金調達力につながると考えています。目先の納税額だけで判断すると、いざ借りたいときの選択肢を自分で狭めてしまいかねません。
何から着手すればよいか
まずは直近の決算書を開いて、売上ではなく営業利益と粗利率を声に出して確認してみてください。本業で黒字が出ているか、粗利率が去年より下がっていないか、この2点だけでも見え方が変わるはずです。数字の中身が分かれば、どこに手を打つべきかが見えてきます。
そのうえで、薄利の取引を続ける意味があるか、値上げの余地はないかを一つずつ検討していく。これは明日から着手できることです。もし自社の数字をどう読めばいいか迷うなら、決算書を第三者の目で分解してもらうのも一つの選択肢です。身内では見えにくい構造が、客観的な視点で浮かび上がることがあります。
※本コラムは、代表・大越の経験と考えにもとづく意見です。数値は説明のための計算例です。