値上げが怖い社長は、まず何を計算すべきか
まず計算すべきは「何%の客が離れたら損益が同じになるか」です。これが分かれば、値上げの怖さは具体的な数字に変わります。
粗利とは、売上から仕入れや材料など直接かかった原価を引いた残りのことです。たとえば年商8億円、粗利率20%の会社なら、粗利は1.6億円です。ここから人件費や家賃などの固定費を払って、残りが営業利益になります。
値上げが怖いのは、客が離れる「見えないリスク」に頭が支配されるからです。離れる客の数を先に数字で置いてしまえば、判断は感情ではなく計算になります。
粗利率を1%上げると、利益はどれだけ変わるのか
粗利率が1%上がると、営業利益は想像以上に大きく動きます。これは粗利の増分がそのまま利益に乗るからです。
たとえば年商8億円、粗利率20%、営業利益が3,000万円の会社を考えます。値上げで粗利率が21%になれば、粗利は1.6億円から1.68億円へ、800万円増えます。固定費が変わらなければ、この800万円はほぼそのまま営業利益に乗り、3,000万円が3,800万円になる計算です。
売上を増やして同じ800万円の粗利を得ようとすると、粗利率20%のままなら売上を4,000万円増やす必要があります。1%の値上げと、売上5%増。どちらが現実的かを考えると、値上げの効率の良さが分かります。
値上げで客が離れても利益が増えるのはなぜか
客が一部離れても、残った取引の利益が増えるため、全体の利益はむしろ増えることが多いからです。これを損益分岐点の考え方で確認できます。
損益分岐点とは、利益がゼロになる売上の水準のことです。値上げをすると、同じ利益を出すのに必要な売上が下がります。つまり、少ない客でも以前と同じ利益を確保できるようになります。
たとえば粗利率20%の商品を10%値上げすると、1個あたりの粗利は大きく増えます。仮に販売数が1割減っても、1個あたりの利益が増えているため、トータルの粗利はほぼ維持、あるいは増えることもあります。離れる客より、残る客からの利益に目を向けるべきです。
- 値上げ前:100個 × 粗利200円 = 粗利2万円
- 10%値上げ・販売1割減:90個 × 粗利300円 = 粗利2.7万円
- 客が減っても粗利は増えている計算になる
値上げは一律でよいのか、分けて考えるべきか
値上げは一律ではなく、商品や顧客ごとに分けて考えるべきです。すべてを同じ率で上げると、強い商品で損をし、弱い商品で客を失います。
まず商品ごとの粗利率を並べてみてください。粗利率が低い商品ほど、少しの原価上昇で赤字に転落します。逆に、競合が少なく顧客が離れにくい商品は、値上げの余地が大きいことが多いです。
顧客ごとの見方も同じです。取引量は多いのに粗利率が極端に低い顧客は、売上を支えているようで利益を圧迫していることがあります。全体を一度に動かすのではなく、影響の大きいところから順に手をつけるのが現実的です。
明日から何をすればよいか
まず自社の粗利率を正確に把握し、商品別・顧客別に分解することから始めてください。全体の数字だけ見ていては、どこに値上げの余地があるか分かりません。
次に、主要な商品について「何%の客が離れたら利益が同じになるか」を計算します。この数字が分かれば、値上げの怖さは具体的な判断材料に変わります。実際に離れる客がその水準より少ないと見込めるなら、値上げは十分に検討に値します。
とはいえ、自社の数字を自分で分解するのは難しいものです。見慣れた数字ほど客観視しにくくなります。どこに値上げの余地があるのか判断に迷うなら、一度第三者の目で粗利を分解してもらうのも一つの選択肢です。
※本コラムは、代表・大越の経験と考えにもとづく意見です。数値は説明のための計算例です。