人は、追いかける数字のとおりに動く
会社の中で何を目標にするかは、社員の行動を決めます。売上目標を掲げれば、営業は売上を取りに行きます。それ自体は正しいことです。ただ、売上だけを追う仕組みのもとでは、値引きをしてでも受注を取ることが「成果」になってしまいます。
私は、中小企業の経営で一番もったいないのは、この値引きの積み重ねだと考えています。1件ごとの値引きは小さくても、それが毎月、何十件と続くと、粗利(売上から売上原価を引いた額)は確実に削られていきます。
値引き1%は、利益の何%にあたるか
計算例で見てみます。売上1億円、粗利率20%の取引があるとします。粗利は2,000万円です。ここで1%値引きすると、売上は9,900万円、原価は変わらず8,000万円なので、粗利は1,900万円になります。
値引きはたった1%なのに、粗利は5%減っています。粗利率20%の会社では、値引き1%は粗利の5%にあたる、ということです。粗利率が10%の会社なら、値引き1%で粗利の10%が消えます。
売上だけを見ていると、この重さが見えません。粗利を見ていれば、「その1%の値引きは本当に必要か」という問いが自然に出てきます。
指標を粗利に変えると、何が変わるか
追う数字を粗利に変えると、社内の判断が少しずつ変わっていきます。私が特に大きいと感じるのは、次の3点です。
- 値引きの判断:値引きの前に「粗利がいくら減るか」を確認するようになる
- 受注の選び方:売上が大きくても粗利の薄い案件より、粗利の厚い案件を優先するようになる
- 営業の評価:売上の大きい人ではなく、粗利を多く稼いだ人が評価されるようになる
粗利で見ると、断る仕事が決められる
売上を軸にしていると、来た仕事を断る理由がありません。どんな仕事でも売上は増えるからです。その結果、手間のかかる小口の仕事や、無理な短納期の仕事まで引き受けて、現場が疲弊していきます。
粗利を軸にすると、「この仕事は粗利が薄いうえに手間がかかる。条件が合わなければ断る」という判断ができるようになります。断ることは、残った仕事の質を上げ、社員の時間を利益の出る仕事に振り向けることでもあります。
私は、利益の出る会社とそうでない会社の違いは、受ける仕事の選び方にあると考えています。そして、その選び方を決めるのは、社内で何の数字を追いかけているか、です。
営業利益まで見て、はじめて経営の数字になる
粗利の次に見てほしいのが、営業利益(粗利から人件費や家賃、広告費などの販管費を引いた額)です。粗利が十分でも、それ以上に販管費がかかっていれば、会社には利益が残りません。
粗利は「仕事そのものの稼ぐ力」、営業利益は「会社全体として本業で稼ぐ力」です。中小企業の社長には、この2つを毎月セットで見ていただきたいと私は考えています。売上はその結果としてついてくる数字、という位置づけで十分です。
明日からできる切り替え方
指標を変えるといっても、いきなり評価制度を作り替える必要はありません。私がおすすめしているのは、月次の会議資料に、取引先別の粗利と粗利率を1列ずつ足すことです。
それだけで、会議の話題が「今月いくら売れたか」から「どの取引先でいくら稼げたか」に変わり始めます。粗利率の低い取引先が見えれば、値上げや条件の見直しの順番も決めやすくなります。
社内のデータから取引先別の粗利を正確に出すのは、意外と手間がかかります。材料費や外注費をどの取引先に割り当てるか、という判断が必要だからです。もし社内で難しければ、一度外部の目で分解してもらうのも、近道のひとつだと思います。
※本コラムは、代表・大越の経験と考えにもとづく意見です。数値は説明のための計算例です。