なぜ「まず売上」という順番が利益を削るのか
結論から言うと、売上を先に決めると利益は「最後に残ったもの」になり、構造的に薄くなるからです。順番が利益の厚みを決めます。
粗利とは、売上から仕入れや外注費など直接かかった原価を引いた残りのことです。売上を増やす発想では「この仕事をいくらで取れるか」が先に来て、原価や手間は後から埋める形になります。すると、取れた価格に合わせて無理に原価を飲み込むことになりがちです。
私がこれまで構造改革の現場で見てきたのは、忙しいのに儲からない会社ほど「売上の順番」で動いているという共通点です。受注の瞬間に利益がいくら乗っているかを確認しないまま、数だけが積み上がっていきます。
売上が増えても利益が増えないのはなぜか
答えは、売上と利益は比例しないからです。売上が2倍でも、利益率の薄い仕事が増えただけなら利益はほとんど変わりません。
たとえば年商8億円、粗利率20%の会社を考えます。粗利は1億6千万円です。ここで売上を1億円増やしても、その新規分の粗利率が5%なら、増える粗利は500万円にすぎません。一方で受注対応の残業や外注が増えれば、営業利益(粗利から人件費や家賃などの固定費を引いた、本業で残る利益)はむしろ減ることもあります。
売上という数字は大きく見えるぶん、社長を安心させてしまいます。しかし会社に残るのは売上ではなく利益です。見る順番を変えるだけで、同じ仕事量でも残る金額は変わってきます。
受注の段階で何を確認すればいいか
受注する前に「この一件で粗利がいくら残るか」を金額で確認してください。率ではなく額で見るのがコツです。
率だけ見ると判断を誤ることがあります。たとえば粗利率30%でも売上が小さければ粗利額は小さく、粗利率15%でも売上が大きければ額は大きい、という逆転が起きます。社員の手間は額ほど比例しないため、手間あたりに残る粗利で並べると優先すべき仕事が見えてきます。
具体的には、見積もりの横に「予想粗利額」の欄を一つ足すだけでいいのです。原価を仮に置いてでも書いておくと、取ってから「思ったより残らなかった」という後悔が減ります。
- その案件の予想売上
- 直接かかる原価(仕入れ・外注・材料)
- 差し引いた予想粗利額
- 対応にかかるおよその工数や日数
利益を先に決める値決めはどう考えるか
利益を先に決めるとは、確保したい粗利額を決めてから価格を逆算する考え方です。順番を反対にします。
たとえば一件に10日かかる仕事で、1日あたり最低3万円の粗利を残したいとします。すると必要な粗利は30万円です。原価が70万円かかるなら、価格は最低100万円が目安になります。この100万円を出発点に交渉するのと、相手の言い値から考え始めるのとでは、残る利益がまったく変わってきます。
もちろん、市場や競合の都合で希望どおりにいかない場面もあります。それでも「自社として最低いくら必要か」を持っていれば、安く受けすぎる事故を防げます。値引きを求められたときに、どこまで下げられるかの線を自分で引けるようになります。
明日から売上優先を直すには何から始めるか
まず直近3か月の案件を、売上の大きい順ではなく粗利額の大きい順に並べ替えてみてください。これだけで会社の見え方が変わります。
売上順のリストでは上位に来ていた大口の仕事が、粗利順にすると意外と下にいることがあります。逆に、地味に見えていた仕事がしっかり利益を残していることもあります。この並べ替えは、電卓と受注台帳があれば今日のうちにできます。
ただし、自社の数字を自社で分解すると、どうしても「この仕事は付き合いだから」といった理由が入り込みます。どの案件にいくらの原価が紐づいているかを客観的に切り分けたいときは、第三者の目で分解してもらうのも一つの選択肢です。まずは次の見積もりに粗利額の欄を一つ足すところから始めてみてください。
※本コラムは、代表・大越の経験と考えにもとづく意見です。数値は説明のための計算例です。