撤退のタイミングはどう決めるか
撤退のタイミングは、その事業や商品が「限界利益」を出せているかで判断します。限界利益とは、売上から変動費(材料費や外注費など、売上に比例して増える費用)を引いた、固定費の回収に回せる利益のことです。ここがプラスなら、たとえ最終的に赤字でも事業を続ける意味が残ります。
逆に限界利益がマイナス、つまり売れば売るほど現金が減る状態なら、理屈の上では即刻やめるべきです。多くの社長は「売上が立っているから」という理由で続けてしまいますが、売上の大きさは撤退判断の材料になりません。見るべきは、その売上が固定費の回収に貢献しているかどうかです。
たとえば年商2億円の商品ラインで、変動費が2.2億円かかっているなら、売るたびに2千万円の赤字を上乗せしている計算になります。この場合、売上を減らすほど会社全体の利益は改善します。感覚とは逆の動きが起きるのが、撤退判断の難しさです。
なぜやめる判断は遅れるのか
やめる判断が遅れる最大の理由は、これまで投じたお金や時間を惜しむ心理が働くからです。すでに使ってしまって取り戻せない費用のことを、会計では埋没費用(サンクコスト)と呼びます。「ここまで投資したのだから」という気持ちは自然ですが、過去の投資は今後の判断とは切り離して考えるべきです。
もう一つの理由は、撤退を「失敗の認定」と捉えてしまうことです。社長にとって、自分が始めた事業や、長く付き合った取引先を手放すのは精神的に重い決断です。だからこそ、身内の目だけでは冷静な判断が難しく、数字という客観的な物差しが必要になります。
私がこれまで構造改革の現場で見てきた中でも、撤退が遅れるのは能力の問題ではなく、心理の問題であることがほとんどでした。判断を鈍らせているのは情報不足ではなく、過去への執着である場合が多いのです。
選択と集中は利益率にどう効くか
選択と集中とは、利益を生まない事業から資源を引き上げ、利益を生む主力に集中させる経営判断のことです。やめる判断は守りの行為に見えますが、実際には攻めの一手でもあります。人・時間・在庫・運転資金という限りある資源を、最も効率よく利益に変わる場所へ回す行為だからです。
たとえば粗利率10%の不採算ラインに人員を3人割いている会社が、そのラインをたたんで3人を粗利率30%の主力商品に移したとします。同じ人件費でも、生み出す粗利は大きく変わります。全体の売上は一時的に下がっても、営業利益(本業で稼ぐ利益)はむしろ増えることが珍しくありません。
売上が下がることを恐れて不採算を抱え続けると、会社全体の利益率が薄まっていきます。やめる判断は、残す事業の価値を高める判断でもあるのです。
やめる前に確認すべきことは何か
やめる前には、その事業が本当に単独で不採算なのか、全体への貢献を含めて確認すべきです。一見赤字でも、その商品があることで主力商品が売れている、取引全体をつなぎとめている、というケースもあります。撤退の影響範囲を一段広く見る必要があります。
確認の順番としては、まず商品や事業ごとに限界利益を出し、次に固定費の配分を見直し、最後に撤退した場合に浮く資源と、失う売上・関係を並べて比べます。数字だけでなく、取引先との関係や従業員の配置転換まで含めて設計することが、撤退を混乱なく進めるコツです。
急いで切ることと、計画的にたたむことは違います。限界利益がマイナスなら出血を止めることを優先し、プラスだが薄利なら移行期間を設けて段階的に縮小する、といった使い分けが現実的です。
社長が明日から何をすればよいか
まずやるべきは、事業や商品を細かく分けて、それぞれの限界利益を出してみることです。会社全体の損益だけを見ていると、どこが足を引っ張っているかは見えません。売上の大きい順ではなく、限界利益の大きい順、あるいはマイナスの大きい順に並べ替えるだけで、やめる候補が浮かび上がります。
そのうえで、限界利益がマイナスのものから撤退を検討します。ここで大事なのは、過去にいくら投じたかをいったん脇に置くことです。判断基準はあくまで「これから先、続けると現金は増えるか減るか」です。
とはいえ、自社の事業に愛着があるほど、冷静な分解は難しくなります。どの数字で切るべきか迷うときは、利害のない第三者に事業別の採算を分解してもらい、客観的な材料をそろえてから判断するのも一つの方法です。やめる判断は、次の成長のための準備だと考えてみてください。
※本コラムは、代表・大越の経験と考えにもとづく意見です。数値は説明のための計算例です。