売上は「大きさ」、利益は「強さ」
経営者の集まりで最初に聞かれるのは、たいてい「年商はいくらですか」です。売上は分かりやすく、会社の勢いを示す数字でもあります。私もかつては、売上の伸びを一番の目標にしていた時期がありました。
しかし、上場企業の構造改革で値上げや撤退の判断に関わるようになってから、考え方がはっきり変わりました。売上は会社の大きさを表す数字にすぎません。会社が続いていくための強さを表すのは、粗利(売上から材料費や外注費などの売上原価を引いた額)と、営業利益(粗利から人件費や家賃などの販管費を引いた額)です。
中小企業は大企業と違って、手元資金にも人にも余裕がありません。だからこそ、大きさより先に強さを確保しておく必要があると私は考えています。
利益の薄い売上は、会社の体力を先に削る
利益の薄い売上を増やすと、何が起きるか。たとえば粗利率10%の仕事で売上を1億円増やしても、増える粗利は1,000万円です。そのために材料の仕入れや外注費の支払いが先に出ていき、入金は2〜3か月後。増えた売上の分だけ運転資金が必要になり、借入が増えることもあります。
さらに、その仕事をこなすための人手と、段取りや調整に追われる社長の時間も消えていきます。人件費が上がり続けるいまの環境では、増えた1,000万円の粗利が、残業代と採用費でほとんど消えてしまうことも珍しくないはずです。
売上が伸びているのに、なぜかお金が残らない。忙しいのに、決算を見ると利益が薄い。多くの場合、その原因は「利益の薄い売上」が会社の中で静かに増えていることにあると私は見ています。
利益を先に守るとは、何をすることか
利益を先に守るといっても、難しいことから始める必要はありません。私がまずおすすめしたいのは、次の3つを社長自身の目で確かめることです。
- 取引先別・商品別に、粗利がいくら出ているかを一覧にする
- 粗利率が全社平均を大きく下回る仕事と、単価を3年以上変えていない取引先を洗い出す
- その仕事を「値上げする」「やり方を変える」「やめる」のどれにするかを決める
計算例で見る「やめる」効果
たとえば年商8億円、粗利率20%(粗利1億6,000万円)の会社で、売上の1割にあたる8,000万円の仕事が粗利率5%しか取れていないとします。この仕事の粗利は400万円です。
この8,000万円の仕事を手放すと、売上は7億2,000万円に減ります。一方で粗利は1億5,600万円、粗利率は約21.7%に上がります。そして、その仕事に張り付いていた人と時間が空きます。空いた人手で粗利率の高い仕事を少しでも増やせれば、売上を減らしたのに利益が増える、ということが起こり得ます。
もちろん、すぐにやめられない取引もあります。その場合でも、値上げの交渉材料や、やり方を見直すきっかけになります。大事なのは、利益の出ていない仕事を「見えている状態」にしておくことです。
売上を伸ばすのは、利益の土台ができてから
私は売上を伸ばすことを否定しているわけではありません。利益の出る仕事の型ができていれば、売上の伸びはそのまま利益の伸びになります。問題は順番です。利益の土台がないまま売上を追うと、規模が大きくなるほど苦しくなります。
まずは、利益の出ない仕事を見つけて、直すかやめる。そのうえで、利益の出る仕事を増やしていく。地味に見えますが、これが中小企業にとって一番確実な成長の道筋だと私は考えています。
社内だけでこの分解をしようとすると、どうしても「昔からのお付き合いだから」という事情が判断を鈍らせます。一度、第三者の目で取引先別・商品別の利益を分解してみることも、選択肢のひとつに入れてみてください。
※本コラムは、代表・大越の経験と考えにもとづく意見です。数値は説明のための計算例です。